KNOWLEDGE NOTE

ナレッジノート

アフター・コロナの在宅勤務について考える_Vol.1

2023.01.31

アフター・コロナの在宅勤務について考える

一般社団法人日本テレワーク協会によると、テレワークは働く場所によって、自宅利用型テレワーク(在宅勤務)、モバイルワーク、施設利用型テレワーク(サテライトオフィス勤務など)の3つに分けられています。ここでは、とくに「在宅勤務(米国ではWork From Work: WFRという)」について考えてみます。

 コロナ禍が拡大する以前から、ワークライフバランス(Work Life Balance :以下WLB)を拡充するための有効な手立てとして、在宅勤務の普及が企業や政府の重要課題として取り上げられてきました。言うまでもないことですが、職場への出勤が不要になることによって、育児・介護・治療などの問題を抱えている人のWLBは改善する可能性が高いと言えます。実際に、2014年に独立行政法人日本労働政策研究・研修機構(JILPT)が実施した調査の結果によれば、終日在宅勤務を導入した企業の過半数(51.6%)が、「家庭生活を両立させる従業員への対応」において効果があったとしています。

 そして、コロナ禍が収束していない現状によって、在宅勤務は育児や介護などの必要性がある人々以外にも広がり、家族との時間の増加やWLBの改善を実感する人々が増加したという指摘もあります。しかしながら、果たしてこの現象は、アフター・コロナにも定着していくのでしょうか、育児や介護など必要不可欠な理由がない人々にも在宅勤務は広がっていくのでしょうか。

 そもそもテレワークが不可能な職業は、ここでの議論の対象から除外しておく必要があります。顧客や職場の同僚と、空間および時間の共有が必要な職業はそもそもテレワークには向いていないでしょう。たとえば、思いつく限りですが、医療従事者、介護福祉士、保育士、バス・電車運転士、ホテル従業員、マッサージ師、薬局店員、(スーパーなどの)小売店員などの職業が挙げられます。また、運送・配送業、ゴミ収集員、建設作業員、工場作業員、(メーカーなどで基礎研究や商品開発を行う)研究開発者などの職業も該当するでしょう。空間共有を必要とするので当然のことではあるのですが、これらの職業で取り扱う商品、製品、材料、サービス提供対象は、物理的事物(人や生物も含む)であることも共通しています。

 以上のことから考えると、テレワークが可能となるのは、多くのいわゆるホワイトカラーとくに事務、営業、企画などの職業に従事する人々が主となるでしょう。ただし、これらの職業に含まれる仕事の全てにおいてテレワークが可能であるとは言い切れません。そこで次にこれらの職業の中でもとくにテレワークが適している仕事とは、どのような特性を有しているのかを考えてみます。

 まずは、そもそもテレワークが困難である仕事とはどのような特性を有しているのかを考えることから始めます。具体的には、以下の4つがテレワークに向いていない職務特性であると、筆者は考えます。

 

①意味把握の必要性

 自身のタスクが仕事全体の中で持つ意味を掴む必要があることを意味します。これが高いほど、顧客や同僚らとの頻繁なコミュニケーションや協働作業、作業プロセスや途中成果物の共有などが必要となるため、空間および時間の共有に対するニーズも高くなります、つまり、テレワークが忌避されやすくなります。逆に言えば、自分がやるべきタスクが仕事全体から切り出された断片的なものであり、それが全体の中で持つ意味を考えず黙々と遂行すれば良いような場合は、テレワークに適しています。

 

②意思決定の非自律性

 個人が作業に必要な判断を、上司などの管理・監督者に対して絶えず報告や相談し、指示を受ける必要があることを意味します。これが高いほど、逐一の報告・連絡・相談が必要となるため、上司との空間および時間の共有に対するニーズも高くなります、つまりテレワークが忌避されやすくなります。

 

③集団的問題解決

 職場のメンバーと一緒になって意見を出し合い、創造的に問題を解決する必要がある特性を意味します。これが高いほど、不定期(いつでも)かつ不定形な(ちょっとした雑談なども含む)コミュニケーションが必要となり、上司や同僚との空間および時間の共有に対するニーズも高くなります、つまりテレワークが忌避されやすくなります。

 

④フィードバック密度

 仕事の成果に関する情報を、直接的、即時的、多面的に必要とすることを意味します。これが高いほど、顧客や同僚らとの頻繁なコミュニケーションや、作業プロセスや途中成果物の共有などが必要となるため、空間および時間の共有に対するニーズも高くなります、つまりテレワークが忌避されやすくなります。

 以上の4つの特性を合成すると、「テレワーク忌避的職務特性」と定義づけることができます(図1)。ただしこの職務特性は、職務に従事する人の性格や能力といった心理学的要因や、組織の文化や構造、職場内の相互信頼の度合いといった組織的要因が先行要因として影響をおよぼすことが想定されます。

 

 

 ところで、当然のことながらテレワークでは、個人情報や機密情報の漏洩リスクが大きな問題となります。そこでさらに、「データベース(DB)の漏洩リスクの高さ」を、上記のテレワーク忌避的職務特性に掛け合わせることによって、「テレワーク導入困難度」ともいえる包括的な概念を考えることができるでしょう。なお、データベースの漏洩リスクは、データベースへのアクセス頻度が高いほど、かつまた取り扱うデータの守秘性が高いほど、高くなると思われます。一方で、データベースの漏洩リスクは、セキュリティ技術のレベルによって緩和されるとも思われます。

 これらの要因を含めた理論的なモデルを仮説としてまとめたものが、以下の図2です。しかしながら本稿は、この仮説の妥当性について検証することが目的ではないので、これ以上の議論は別の機会に譲ります。

さて、上記のモデルからテレワークが比較的容易な仕事を、企業の職能部門単位で考えてみると総務部門(それも全ての業務ではない)くらいしか、筆者は思いつきません。

 しかし職務を個々のタスクや作業レベルに分解していけば、人事や企画・開発さらには営業部門でも、テレワークが可能な特性を有している部分があるでしょう。たとえば、重要な顧客情報や機密情報を用いない(=重要でない)書類の作成などが、該当すると思われます。

 確かに個々のタスクのレベルで見ていけば、上記のような職能部門で部分的にでもテレワークを導入することは可能であると思われます。しかしながら、テレワークをする人ばかりに、そういった「重要性の低い」タスクが集中してしまう可能性があることが問題です。つまり、他の人から切り出されたタスクばかりをテレワークを行う人に充てがわれ、雑用係のようになってしまう懸念があります。そのことが心理的に与える悪影響も考えられますが、この点については次稿で詳しく述べます。そもそも、ある人の仕事を部分的に切り出して他の人に渡すことは可能なのかという疑問もあります。仮に可能だとしても、断片的な作業の繰り返しになることによる疎外感が生じる懸念もあります。また、テレワークでもできる仕事とそうでない仕事が1人の職務の中で切り離しがたく混在する場合、リアルな職場と自宅等テレワークの場の往来が必要となり、かえって非効率になるかもしれません。ただし以上のような懸念は、(門外漢の筆者には詳しく分かりませんが)新しい情報技術によって、緩和されるのかもしれません。

 

【引用・参考文献/資料】


池添弘邦「テレワーク-JILPT調査から・在宅勤務を中心に」Business Labor Trend , 2018年12月号, 2018年, pp.6-9. 


一般社団法人日本テレワーク協会ウェブサイト(https://japan-telework.or.jp/tw_about-2/)2021年2月4日時点.


Hackman, J. R., & Oldham, G. R., Work redesign. Reading, MA: Addison-Wesley. ,1980.

著者
坂本 理郎

大手前大学現代社会学部教授。通信教育部長。 株式会社高島屋、株式会社三和総合研究所、兵庫労働局、株式会社ライトジャパンを経て、2006年に大手前大学に着任。シニア産業カウンセラー。2003年神戸大学大学院経営学研究科博士前期課程修了。2018年関西大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。

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