KNOWLEDGE NOTE

ナレッジノート

【パフォーマンス・マネジメントコラム_Vol.3】パフォーマンス・マネジメント再考(2)

2023.03.16

「年度単位での評価やレイティング(ランク付け)を廃し、上司部下間の日常的でリアルタイムな対話とフィードバックで置き換える」ことを重視する「パフォーマンス・マネジメント」は、レイティングに基づく伝統的な評価制度を批判の対象としてきました。

しかし第2回のコラムで議論したように、伝統的な評価制度の普及を支えてきたのは、ジャック・ウェルチやマッキンゼー社のコンサルタントなど、当時のスーパースター達でした。彼(女)等は、「Accountability」=「人材の評価の厳密性や公平性に対する説明責任」の大切さを主張し、その価値観を推し進める形で伝統的な評価制度を普及させていきました。では、「Accountability」という真っ当な価値観に基づく伝統的評価制度は、なぜ批判の対象となったのでしょうか?

もちろん、そこには様々な要因があります。ここで注目したいのは、ハーバード・ビジネス・スクールのEthan Bernsteinが展開した「透明性の罠」と呼ばれるコンセプトです。

「Accountability」と「透明性」はコインの表と裏のような関係にあります。有能な社員に正しく報いるためには、個々の社員のパフォーマンスについて詳細に把握する(「結果として生まれたパフォーマンスの高さ/低さは、偶然によるのではないか?」「まだ利益につながっていないが、パフォーマンスへ潜在的に貢献する行動をとっていないか?」など)必要があります。

しかし、Bernsteinが主張するように、組織における透明性が高まるほど、人はイノベーティブな行動をとらなくなってしまいます。

例えば、他人から見られている状況においては、慣れ親しんだタスクのパフォーマンスは高まるけれども、創造性が求められるタスクのパフォーマンスは悪化することがわかっています。みなさんも、上手くできる自信がなく、やりながら創意工夫が求められるようなことは、まずは独りで試し練習したいと思うし、人前では成功の確率の高いことのみをやりたいと思うでしょう。

また、社会学者アービング・ゴッフマンが洞察したように、人から見られている場合、周りの人々が自分に期待している役割を演じようとする傾向を人は持っています。したがって、透明性の高い職場では、上司の想定内に入っている行動や、前例のある行動、周りと同じ行動を、社員はとるようになります。

VUCAの時代において、「周りに合わせることなく、上司の想定を超えた前例のない課題に、創造性を発揮しなら挑戦すべきだ」という考えが一般的になりました。その中で、透明性を前提とする伝統的評価制度は、イノベーティブさを失わせる足枷となってしまったのです。

したがって、例えばGoogleが採用しているように、仕事時間の一部を監視や評価の対象から完全に外すことで、社員の創造性を刺激するという施策がもてはやされるようになりました。

しかし当然のことですが、「社員を完全に放置することで、自然とイノベーティブな行動が生まれる」という主張は、やや理想論すぎるでしょう。まさにそこにおいて、上司が重要な役割を果たすのです。この点については、第4回で議論していきたいと思います。

著者
宍戸 拓人

武蔵野大学経営学部経営学科准教授。株式会社ConsulenteHYAKUNEN、リサーチ・フェロー 博士(商学)。株式会社Maxwell’s HOIKORO、執行役員 Chief Development Officer。TSUISEE/製品開発責任者。近著に『最新理論で「仕事の悩み」突破―あなたの職場に世界の経営学を―』(日経BP社,2022年)がある。

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