KNOWLEDGE NOTE

ナレッジノート

「主体性を持ってリスクをとる人材」のパフォーマンスが低い理由

2023.02.12

 「VUCAの時代、失敗するリスクを恐れず、自ら動く主体性を持つ人材が求められる」といったフレーズを何度も耳にすることがあります。大学教員として働く中でも、「主体性を発揮し、リスクをとることを厭わないです!」と自己アピールをする学生に出会うことが少なくありません。

しかしその一方で、私自身がスタートアップのメンバーとして働く中で日々感じるのが、「『主体性』は間違いなく必要だけれど、『リスクを恐れず』は何とも違和感がある」ということです。

開発や営業といった課題について検討している際の、私の(そして、おそらく他のメンバーの)気持ちを一言で言うならば「割とビビってる」でしょう。「この仕様の説明の仕方で、想定通りにシステムは完成するのだろうか」、「この内容で、システムの本当の価値が相手に伝わるだろうか」といった不安が次々にわき、「これもやっておいた方がいいかもしれない」「あれは大丈夫だろうか」といった対処の方法に悩まない日はありません。

このような慎重な態度は、リスクを最小限にするという意味で「リスク回避的」だと言えます。しかし、それがビジネスにとって好ましくない影響を与えているとは、とても思えません。これは、スタートアップに限られた話ではなく、一般的な企業でも同様でしょう。では、「主体性をもってリスクをとる人材」というフレーズは、何故もてはやされているのでしょうか。

エラスムス・ロッテルダム大学(執筆当時)のLotte Glaserたちは、2016年の論文において、まさにこの問題について調査を行いました。彼女等は、従業員16万人、売上高170億ドル規模の物流企業で働くミドルマネジャーを対象にサーベイ調査を行いました。分析の結果、最も高いパフォーマンスを達成していたマネジャーは、「主体的」かつ「リスク回避的」なマネジャーであるという事実が確認されました。

Glaserたちは、「主体的でリスクを好むマネジャーは、目の前のチャンスにすぐに飛びつくため、それが持つ長期的なインパクトを軽視し、その実行の中で生じうる問題の見積りが甘く、楽観的過ぎて途中で軌道修正ができない」と主張しました。

結局のところ、「主体性を持ってリスクをとる人材」が好ましいという主張は、組織の実態についての深い考察をせずに、言葉の上のみで作り出された主張なのかもしれません。「リスクをとることを恐れるあまり、主体性を失ってしまった人材」が社内に増えることが問題なのは間違いありません。だからと言って、それと言葉の上で反対の人材である「主体性を持ってリスクをとる人材」が好ましいとは限らないのです。

「主体的だからこそ、そのリスクを慎重に見極め、無用なリスクを抑えられる人材」。それこそが、先の見えないVUCAの時代に求められる人材だと言えるでしょう。

著者
宍戸 拓人

武蔵野大学経営学部経営学科准教授。株式会社ConsulenteHYAKUNEN、リサーチ・フェロー 博士(商学)。株式会社Maxwell’s HOIKORO、執行役員 Chief Development Officer。TSUISEE/製品開発責任者。近著に『最新理論で「仕事の悩み」突破―あなたの職場に世界の経営学を―』(日経BP社,2022年)がある。

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