武蔵野大学経営学部経営学科准教授。株式会社ConsulenteHYAKUNEN、リサーチ・フェロー 博士(商学)。株式会社Maxwell’s HOIKORO、執行役員 Chief Development Officer。TSUISEE/製品開発責任者。近著に『最新理論で「仕事の悩み」突破―あなたの職場に世界の経営学を―』(日経BP社,2022年)がある。
リーダーシップ研修をはじめとする様々な研修は,参加者の継続的な行動変容や習慣化を目的としています.しかし,研修中や直後には行動変容が生まれたとしても,しばらくすると,その効果が消えてしまうことがしばしばあります。
また,このような行動変容の効果減少や効果消失は,研修だけに限る話ではないでしょう.例えば,上司が現場で部下に行動を変えるように促し,実際に部下が行動を変えたのにもかかわらず,気づいたら元の行動に戻ってしまうことがあります。
ウェスタン・ワシントン大学(執筆当時)のRobert Marxは,「なぜ研修は継続的な行動変容を生み出さないのか」という観点から,この問題について論じました.40年ほど前に書かれた論文ですが,今もなお重要な議論を行っているため,ここで紹介したいと思います。
まずMarxは,「研修は依存症更生プログラムと類似している」と指摘します.どちらも,ついついやってしまう行動(例えば,部下に命令だけして放置する/暴飲する)を,求められる行動(意義を説明しながら任せる/禁酒する)へと置き換えることが目的となっています。
さらに,両者とも,調子がよい時は「正しい行動」を続けられますが,状況が悪くなると「元の行動」に戻ってしまいがちです.禁酒中にストレスがかかるとお酒に逃げたくなるのと同様に,チームとして結果が出ておらず,成果達成へ強くプレッシャーがかかると,それまで権限移譲を行っていた上司が,昔から慣れ親しんできた命令放置のマネジメントへと戻ってしまうのです。
「その瞬間こそが,行動変容が続くかどうかの分かれ目である」と,Marxは主張します.行動変容の失敗自体が問題なのではなく,その失敗に対する態度が問題なのです.「禁命令放置」の掟を破ったことに対して,「少しだけならいいだろう」「やっぱり,こっちの方がしっくりくる」と言い訳することで自分を納得させてしまうと,そこで行動変容は終わってしまいます。
もちろん,Marxの指摘した要因以外にも,さまざまなきっかけで行動変容が失われてしまうことはあるでしょう.しかし,「正しい行動から逸脱してしまうことも時にはある」という人間が不可避に持つ弱さを理解しながらも,逸脱してしまった事実へ言い訳せずに向き合うことは,行動変容を定着させる上で避けては通れないのです。
「失敗することは認めても,失敗へ向き合わずに逃げることは許さない」.これは,私がConsulente HYAKUNENやMaxwell’s HOIKOROで働く中で感じる,重要な行動規範の1つです.「失敗を認める」という規範の重要性はよく指摘されますが,その規範は「学習する組織」を支える両輪の一方に過ぎません.「失敗へ向き合わずに逃げることは許さない」という厳しい規範を同時に守り続けられるかが,本当の意味で「学習する組織」であり続けるための条件だと,私には感じられるのです。
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