武蔵野大学経営学部経営学科准教授。株式会社ConsulenteHYAKUNEN、リサーチ・フェロー 博士(商学)。株式会社Maxwell’s HOIKORO、執行役員 Chief Development Officer。TSUISEE/製品開発責任者。近著に『最新理論で「仕事の悩み」突破―あなたの職場に世界の経営学を―』(日経BP社,2022年)がある。
「どのような内容の人事制度や人事施策が、会社の業績を高めるのでしょうか?」
アカデミックな世界では、このような質問に対する答えは、すでに用意されています。それは、High-Performance Work Systemと呼ばれる仕組みであり、その仕組みがパフォーマンスに貢献することを示す数多くの実証研究が蓄積されてきました (1)。
では、High-Performance Work Systemとは何でしょうか?例えば、High-Performance Work System について研究したSun et al. (2006)は、以下のような施策がHigh-Performance Work Systemに含まれると述べました(2)。
これらの施策に関して、「当たり前すぎる」「そんなことは、とっくの昔から分かっている」と感じた人も少なくないのではないでしょうか。
もちろん、多くの人が直観的・経験的に分かっていたことを、改めてデータで実証していく作業自体に意味がないわけではありません。しかし、本コラムでは、High-Performance Work System研究の、より実践的な意義について検討していきたいと思います。
ここで、以下のグラフを見てください。これは、Rabl et al. (2014)が行ったメタ分析の結果の一部を抜粋したものです (3)。メタ分析とは、互いに独立に行われた複数の研究を収集し、それら全体に対して改めて分析を行うものです。したがって、その結果はかなり信頼できると考えられています。実際、Rabl et al. (2014)のメタ分析では、156本の研究における35,767社のデータが分析の対象となっています。
グラフの縦軸は、High-Performance Work Systemとパフォーマンスの関係の強さを示しています (4)。したがって、数字が大きければ大きいほど、High-Performance Work Systemはパフォーマンスを高めると言うことができます。
グラフの横軸は、会社が活動している国の文化の違い、すなわち、その会社の社員達が持つ価値観の違いを示しています。3つのグラフの長さが違うということから、社員の価値観の違いによって、High-Performance Work Systemはパフォーマンスを大きく改善させることもあれば、そこまで大きくは改善させないこともある、ということが分かります。
このような発見事実は、重要な知見をもたらすと考えられます。なぜならば、Sun et al. (2006)の示した8つの施策を見たときに感じた「当たり前すぎる」という印象が、多くの人が思っている以上に当たり前ではないことを意味するからです。
もし皆さんの会社が、質の高いHigh-Performance Work Systemを導入したとしても、社員の方々の価値観がグラフのAの状況にあるならば、そのポテンシャルを活かしきることはできません。ポテンシャルを活かすために求められるのは、High-Performance Work Systemの質をさらに高めることではなく、組織文化や社員の価値観を変えることなのです。
しかし、「High-Performance Work Systemは、常に好ましいものなのだ」という単純な考えに固執すると、「評価制度をもっと良いものにしよう」といった施策改善にフォーカスしてしまい、文化や価値観が抱える課題に目を向けることが難しくなってしまうでしょう。
本コラムでは、「グラフの横軸の文化は具体的に何を示すのか?」という点も含め、High-Performance Work Systemのポテンシャルを活かしきれない原因について検討していくことを通して、「好ましそうに見える人事制度は、なぜ好ましい結果をもたらさないのか?」という問題を議論していきたいと思います。
(1)例えば,Combs, J., Liu, Y., Hall, A., & Ketchen, D. (2006). How much do high‐performance work practices matter? A meta‐analysis of their effects on organizational performance. Personnel psychology, 59(3), 501-528.
(2)Sun, L. Y., Aryee, S., & Law, K. S. (2007). High-performance human resource practices, citizenship behavior, and organizational performance: A relational perspective. Academy of management Journal, 50(3), 558-577.
(3)Rabl, T., Jayasinghe, M., Gerhart, B., & Kühlmann, T. M. (2014). A meta-analysis of country differences in the high-performance work system–business performance relationship: The roles of national culture and managerial discretion. Journal of Applied Psychology, 99(6), 1011-1041.
(4)効果量 (r)
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