KNOWLEDGE NOTE

ナレッジノート

「ジョブ型」が会社の未来を食いつぶす時

2023.03.29

職務内容などの条件を定めて雇用契約を結ぶ「ジョブ型」雇用は、さまざまな強みを持つと言われています。その1つに、人材育成上のメリットがあります。職務内容をざっくりと決める従来の「メンバーシップ型」に比べて、職務の内容と要件が明確な「ジョブ型」では、社員一人ひとりが磨くべき能力も明らかになるため、成長や学びが促されやすいと考えられています。

しかし、Consulente HYAKUNENやMaxwell’s HOIKOROでの私自身の働き方を振り返ってみると、それらは「ジョブ型」とは限りなく遠いように感じられます。例えば、企業の方から頂いたデータの分析を行い、その結果をメンバーやクライアントの方々と議論する一方で、エンジニアとのシステム開発のミーティングに参加し、さらに最近ではHR-Tech系の展示会の現場で営業を行うなど、私の「ジョブ」は事前に明確な形で定義されてはいません。

では、「ジョブ」の内容を明確にした上で、1つの「ジョブ」のみにフォーカスしていた方が、私の成長や学びはもっと高まったと言えるでしょうか。私には、そのように思えません。これはいったい何を意味するのでしょうか。

この問題に関して、マギル大学(論文執筆当時)のJean-Nicolas Reytらは、2015年の論文において興味深い研究を行っています。Reytらの調査によって明らかになったのは、複数の役割や職務を同時かつ相互に不可分な形で社員が担っている職場の方が、イノベーションに繋がる学びが進みやすいという事実でした。

一般的に、役割や職務が明確に区切られた職場では、社員は特定の「ジョブ」に集中できるため、「どうすれば、その職務を上手く遂行できるか?」というhowについての問いが駆動します。それに対して、複数の役割が混ざり合った形で任されるような職場では、社員自身が限られた時間とエネルギーを役割間で振り分ける決断をしなくてはならず、時には異なる役割の間で矛盾したことが求められる場合もあります。そのため、「そもそも、何故それらの役割を遂行すべきなのか?」といったwhyについての問いに向き合い、一つひとつの役割が持つ本質的な価値や、そのプライオリティ、矛盾を乗り越えるためのアイデアについて、社員一人ひとりが頭を悩ませる必要が生じます。

Reytらは、これらwhyについての問いによって、社員の抽象的かつ統合的な思考が促されることで、「両利きの経営」で言うところの「知の探索」が進む、という事実を定量分析によって示しました。その結果、単なるカイゼンを超えたイノベーションを担う人材が育っていくのです。

「ジョブ型」は、howの問いを駆動させることで、個々の「ジョブ」に関わる具体的かつ特殊的な学びを効率的に促進させます。しかし私たちは、企業の長期的成長やイノベーションのためには、大きな視野の下でwhyを考えられる人材が必要なことも知っています。特に、ビジネス環境の不確実性が高まれば高まるほど、そのような人材の価値は高まっていくでしょう。その意味で「ジョブ型」は、現在の職場の効率性改善と引き換えに、会社の未来を担う人材の学びの機会を犠牲にしているとも言えるのです。

著者
宍戸 拓人

武蔵野大学経営学部経営学科准教授。株式会社ConsulenteHYAKUNEN、リサーチ・フェロー 博士(商学)。株式会社Maxwell’s HOIKORO、執行役員 Chief Development Officer。TSUISEE/製品開発責任者。近著に『最新理論で「仕事の悩み」突破―あなたの職場に世界の経営学を―』(日経BP社,2022年)がある。

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